東京モーターショーコンセプトモデルは、商品化されたモノもあれば、商品化されなかったモノもある。 日の目をみなかった当時の技術や構想を振り返ってみる……。
解説は元ホンダの二輪車広報マンの 高山正之 さん。 聞き手は 当SPANGSS主宰の 近藤スパ太郎。 2人は2000年に ホンダの「FTR」と「SL230」を使って、標高5200mのチベット チョモランマベースキャンプを目指す、過酷なアドベンチャーツーリングの実証実験仲間でもある。
【登場人物紹介】
■解説:高山正之/1955年 山形県生まれ
2020年7月に46年務めた本田技研工業(二輪車広報マン)を退社。趣味で集めた オートバイ・カタログのコレクションを、当時の時代背景も解説しながら紹介する「カタログは時代を映すバックミラー」と家庭菜園の「高山農園日誌」を、当SPANGSSで展開中。
高山正之さんの記事コチラ
■聞き手:近藤スパ太郎/1967年 埼玉県生まれ
俳優・リポーター・当SPANGSS主宰 / 趣味:電動バイクの試乗(バイク誌にも連載中)/ 環境問題をテーマにしたラジオ番組【Inter FM 「ESSENCE OF STYLE」】のパーソナリティを担当したコトを切欠に、環境問題の最先端技術の面白さにハマる。
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スパ太郎 (以下スパ): さて今回も元ホンダの二輪車広報マン・高山さんから、東京モーターショー ホンダのブースに出展された物をお聞きしたいと思います。
前々回は「1997年と1999年の東京モーターショー」、そして前回は20年前の「2001年の東京モーターショー」のホンダブースに参考出品されたモデルについて語りました。
20年も前に、電動のレーシングマシンやショッピングに使えるモデルとか、ホンダは多種多彩な電動バイクのコンセプトモデルを ”5車種”も出品しいて、とても面白かったです!
※その記事はコチラ
高山:やっぱり21世紀初の東京モーターショーということで、開発陣も頑張ったのでしょう。まだまだ電動二輪車は期待されていなかった時代ですが、環境保全は当時も最重要課題でしたから「こんな技術開発も行っていますよ」という姿勢を明確に示す必要があったことも事実です。
スパ:東京モーターショーは2年毎に開催されていますが、2003年の東京モーターショーでは、ホンダではどんな電動バイクをお披露目したんですか?
高山:実は2003年、2005年、2007年では、電動二輪モデルは出品されていません。エンジンのクリーン化技術や、世界初の二輪車用エアバッグとか、大型二輪スポーツクルーザーの「DN-01」に搭載した、ホンダ独自技術の油圧制御のオートマチックなど、より安心で快適な二輪車を目指す技術開発路線だったように思えます。
スパ:確かに毎回電動のコンセプトモデルを出品しても、発売の予定が無ければ発展性がありませんもんねぇ。
高山:ですが、2009年の東京モーターショーで、いよいよ現実味を帯びてきた電動二輪スクーター「EVE-neo」がコンセプトモデルとして出品されました。
スパ:おぉ! これ知ってます。あれ? でも車名は「EVE-neo」(イブイー ネオ)ですか? 「EV-neo」(イーブイ ネオ) ではなかったでしょうか? ”E” が1個多くないですか?
高山:よく見つけましたね。この時は「EVE-neo」という車名だったんです。ちょっとややこしいネーミングです。
スパ:なるほど。でもやっぱりホンダらしく堅実な造りですね。 ホンダが1991年に初めて ”電動二輪車”をお披露目した1991年の「CUV ES」(※)と基本構成が同じだし、今の電動二輪スクーターとも基本構成がそんなに変わらないコトにも興味深いです。
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ホンダは 30年前の1991年6月に、ホンダ初の電動バイク「CUV-ES プロト」をお披露目した!
高山:やはり重いバッテリーは車体の重心近くに持ってくるのがセオリーですから。「CUV ES」の時はバッテリーはステップボードの中に収納していましたが、「EVE-neo」ではバッテリーはシート下に収納して、着脱式にして充電しやすく、より使い勝手が良くなりました。
高山:そして翌年の2010年12月に、原付一種(50ccと同じクラス)の電動スクーター「EV-neo」(イーブイ‐ネオ)として、正式発売が発表されました。
スパ:「EVE-neo」と「EV-neo」。見た目では変わっていないような気がしますが、何か変更点はあったんですか?
高山:一番は販売価格が現実的な価格になるように努力されました。法人や個人事業主に向けたリース販売のみで、価格は税込みで 57万4350円。これはオプションの急速充電器込みの価格でした。
スパ:急速充電器単体ではどのくらいでしたか?
高山:単体価格は約12万円でした。これは、車両本体価格の約1/4を占めていましたから高価格です。バッテリーも充電器も「EV-neo専用開発」でしたから、仕方がないと言えばそれまでなんですが。
スパ:走行距離はどんな感じでしたっけ?
高山:一充電での走行距離は、34km(30km/h定地走行テスト値)の公表値でした。
スパ:そうでした。エンジン車と比べてしまうとかなり短いなーという印象でした。実際にビジネスシーンでの活用はどうだったんでしょうか?
高山:クリーンなイメージを大切にするピザの配達などの需要はありましたが、1年間の販売計画台数1,000台には届かなかったですね。やはり、価格と航続距離、充電時間などがネックになったと思います。
スパ:ところで高山さん。「EV-neo」には、ホンダがレプソルカラーにした車両が有りましたよね!
高山:はい。MotoGPの現場で、選手やスタッフたちがパドック周りで使用していました。当時のホンダの契約ライダー、ケーシー・ストーナー選手や、ダニ・ペドロサ選手も実際に乗っていました。
スパ:そのレプソルカラー特別仕様の「EV-neo」に、ボク、乗せて頂いたことあるの覚えてますか?
高山:そうでしたっけ? この車両はMotoGPのパドックでの使用以外、誰にも乗せていない…と思ったけどなぁ。
スパ:最初は高山さんから「置き撮り撮影ならOK」と言われていたんですけど、「乗らないと分からないでしょ!」と、街中走行のお許しを頂いたんですよ。ケーシー・ストーナーや ダニ・ペドロサが座ったシートに跨って運転したの、とても感動的でした。
高山:スパ太郎さんが勝手に乗ったんじゃないの(笑)?
スパ:当時寄稿したタンデムスタイルの記事にも、「当初は撮影のみの許可だったのが、特別に街中で乗っても良いコトになったのだ!」って書いていますよ!
スパ:今回、当時「バイクテクノロジー学園」の連載をさせて頂いていた タンデムスタイル 編集部から、SPANGSS展開での企画意図に賛同頂き、編集部で撮影した写真と、今回特別に修正前の記事作成中のページデータ掲載許可を頂きました。(ありがとうございます) これはあくまでも修正前の物なので、バッテリ―位置のイラストが違っていたり、他にも違っている箇所があるかも知れませんので、文字は読めないサイズで掲載しますね。
それで高山さん、外装はレプソルカラー仕様ですけど、中身は市販の「EV-neo」と同じだったんですよね!
高山:はい。外装の特別仕様車でしたね。 記事を見て少し思い出しました。でも許可したかなぁ…。これはとても貴重な経験でしたね。
スパ:はい。とても感謝しています。スペックも掲載していました。
SPEC.
●原動機種類:交流同期電動機●定格出力:0. 5 8k W ●最高出力:2.8kW(3.8PS)/5,000/rpm●最大トルク:11Nm(1.1kgf・m)/2000rpm●バッテリー種類:リチウムイオン電池●バッテリー電圧/容量:72V-12.6Ah(1HR)●車両重量:106㎏[110㎏]●航続距離:34㎞(30㎞/h定地走行テスト値)●充電時間:AC200V急速充電器 約30分/AC100V普通充電器 約3.5時間●価格 車両本体45万4650円[45万9900円] /普通充電器付49万4550円[49万9800円]/急速充電器付57万4350円[57万9600円]
[ ]内はEV-neoPRO
スパ:約30分でフル充電ができる200V急速充電器と、約3.5時間の100V普通充電器の両方が使用できること。バッテリーを外して充電するだけでなく、プラグイン充電が出来た…っていう点も、当時としては画期的な技術ですよね。この辺りもホンダらしいなぁと思います。
スパ:メーターはとてもシンプルでした。パドック周りしか走っていないから、269㎞しか走っていなかった様ですね。
スパ:電動バイクであることを激しく主張するこのテールビュー、ボクのお気に入りの角度です。
高山:カラーデザインは、実際にHRCのレーシングマシンの、レプソルカラーを担当するデザイナーが行いました。人目を惹きつけますよね。
スパ:はい。街中でとても目立っていました。でもそれ以上に、電動の面白さを痛感したのを覚えています。 ホンダの地下地下駐車場でバイクを起動させて、急なスロープを音も静かにグイグイと力強く登ってしまい「電動バイクのトルクフルってスゴイなー」と。原稿にも「30kg のフル積載でも12度の坂でスムーズな発進ができる」って書いていました。
高山:「EV-neo」は、将来に向けた電動二輪車を普及させるための実証実験を、熊本県やさいたま市、そしてスペインなどでも行って、様々なデータを収集するなど、地道な活動にも貢献してくれましたので、影の功労者という存在でもありました。
スパ:なるほど。現在の「PCX ELECTRIC」や「Honda e: ビジネスバイクシリーズ」に繋がっているんですね…。
■参考:「PCX ELECTRIC」と「Honda e: ビジネスバイクシリーズ」
ホンダ「PCX ELECTRIC」。定格出力0.98kWの原付二種。法人や個人事業主に向けたリース販売のみ。
ホンダ公式リンク
ホンダの ”電動ビジネスバイクシリーズ” の3機種。左から「ベンリー e: 」「ジャイロ e:」「ジャイロキャノピーe:」。3機種ともに原付一種(50ccと同じクラス)でこちらも法人や個人事業主に向けたリース販売。
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スパ:「EV-Cub」はとても衝撃的でした。 電動になってもスーパーカブらしさは受け継がれていて、カブ好きな方は興味津々だったと思います。
高山:とうとうスーパーカブも ”電動” を意識せざるを得ない時代になってきた…と感じましたね。ただ、同時に出品された「EVE-neo」と比べると、現実味は薄かったですね。
ですが、デザインの方向性を示した1台だと思います。時代は変わっても、電動になっても ”スーパーカブのパッケージングは変えませんよ” というような。
スパ:カブらしいデザインを大切にしながら、前後にインホイールモーターを採用した斬新さも感じました。バッテリーの搭載位置やバッテリーの大きさは?とかも気になりましたが、でも「ショーモデルなんだな…」というのも、明らかでしたしね。
高山:このモデルが、6年後の2015年・東京モーターショーでお披露目された「EV Cub コンセプト」につながって行きます。それはまた「2015年の回」で紹介したいと思います。
スパ:おぉ! 楽しみです!!
高山:「EV-neo」の登場から10年以上が経ちましたが、電動車の弱点はまだまだ解決には至ってません。ガソリンエンジン車は、100年以上かけて技術革新されて普及しましたから、価格面でもエンジン車と同等かそれよりも安価になる為には、社会のシステムを変えるくらいの勢いが無いと…と思います。
スパ:そうですよね。航続距離がもっと伸びて、充電時間ももっと短く。価格ももっと下がればもっと皆が興味を持ちますよね。でも電動バイクは今が過渡期だからこそ、色々な可能性があって面白いなーとも思います。
次回お聞きできるのは「2011年の東京モーターショー」ですか?
高山:はい。2011年のホンダブースには大きな動きがありました。ホンダが掲げたテーマは「二輪・四輪・汎用で創造する次世代電動モビリティーの世界」でした。
スパ:ということは「電動モビリティー」がたくさん登場したってコトですね!! 次回もとても楽しみです~!
ということで、バイク好きな2人による「電動よもやま話」は、きっと今後も開催されます……
【つづく】
高山正之・スパ太郎の「電動よもやま話」シリーズ
・ホンダは 30年前の1991年6月に、ホンダ初の電動バイク「CUV-ES プロト」をお披露目した!
・ホンダは1997年の東京モーターショーで、ハイブリッドバイク、バッテリーシェアリングの提案を既に行っていた!
・20年前の2001年東京モーターショーで、ホンダは電動バイクを”5車種”も出展していた…!
おまけ
レプソルカラーの「EV-neo」と、スパ太郎の愛車の1台 ホンダXR-BAJA。ホンダ青山本社の駐輪場にて。2013年1月撮影。